Ⅰ .法律規定
商標の識別力は、商標の識別性とも呼ばれ、関連公衆が商品やサービスの出所を区別できるように、商標が持つべき特徴を指す。言い換えれば、商標は消費者に識別・記憶され、商品やサービスの出所を示す機能・役割を果たすことができる。
商標の識別力は、標識が商標登録できる重要な要件である。中国商標法第11条1項の規定によると、標識は識別力に欠けている場合は商標として登録できない。識別力に欠けている具体的な状況は以下のとおりである。
1.本商品の通用名称、図形、型番のみがあるもの (例)「Phone」は商品「携帯電話」に使用されている。「XXL」は商品「服装」に使用されている。
2.商品の品質、主要原料、機能、用途、重量、数量及びその他の特徴のみを直接表すもの (例)「50g」は商品「米」に使用されている。「24 hours」は「銀行」に使用されている。
3.その他の識別力に欠けているもの
具体的に、以下のものが含まれている。
簡単すぎる、または複雑すぎる文字、図形、アルファベット、数字など;商品やサービスの特徴を表すフレーズやセンテンス、または一般的な広告宣伝用語;日常的な商業貿易の場所・用語・標識、企業の組織形式、業界名または略称;出願人(自然人を除く)の名称のフルネームのみがあるもの;よく使われる祝日の名前、祝日の祝福語、ネット上の流行語、スタンプ、よく使われるシンボルなど。
(例)「A」、「□」、「Mall」、「GUESS HOW MUCH I LOVE YOU」、「Inc. 」、「Happy New Year」、「」など。
中国商標法第11条第2項に「使用による識別性の獲得」という例外の状況が規定されている。すなわち、商標法第11条第1項に記載された標識が使用により識別力を獲得し、識別しやすい場合に商標として登録することができる。
したがって、商標登録の要件となる識別性は、固有の識別性と使用による識別性の2つの方法で得ることができる。固有の識別性は商標自体が持つものであり、使用による識別性の獲得は商標自体を持続的に使用することによって識別性を得られるものである。本文において、使用による識別性の獲得に着目して説明したいと思う。
Ⅱ.「使用による識別力の獲得」の判断要件
商標審査及び審理ガイドラインに基づき、商標が識別力を持つかどうかを判断するには、商標自体の意味、称呼及び外観構成を考慮する以外に、以下の点を考慮する必要がある。
(1)当該商標に対する関連公衆の認知状況
(2)当該商標が指定された商品またはサービスで実際に使用された時間、使用方式、同業界の使用状況
(3)当該商標を用いた商品又はサービスの販売量、売上高及び市場シェア率
(4)当該商標を用いた商品又はサービスの広告宣伝状況及びカバー範囲
(5)当該商標に識別力を持たせる他の要因
一商標が使用によって識別力を得る商標であるかどうかを判断するには、関連公衆の認知を基準にしなければならない。当事者は当該商標を使用することで識別力を得たと主張する場合、相応の証拠資料を提出して証明しなければならない。当該商標の使用状況を証明するための証拠資料は、使用する商標、商品又はサービス、使用日及び当該商標の使用者を表すものである。
使用により識別力を得た登録出願商標は、実際に使用されている商標と基本的に一致しなければならない。当該商標の識別特徴を変更してはならない。そして、実際に使用されている商品やサービスに限定しなければならない。この標識が他の標識と共同で使用されている場合は、この標識と他の標識の識別性を区別して、この標識自体が使用によって識別力を得たかどうかを判断する必要がある。
商標が使用によって識別力を得たかどうかを確定するために、拒絶査定不服審判と登録不許可不服審判の案件については、審理時の事実状態を基準としなければならない。無効審判の案件は原則として登録時の係争商標の事実状態を基準とし、審理時の事実状態を参考とする。
Ⅲ.参考事例
以下、2つの事例を挙げて商標の「使用による識別性の獲得」の審理状況を説明する。
<事例1>
商標登録番号:G1221382

本件商標:
(立体商標、指定の色、文字「j'adore」を含む) 指定商品:香水、爪用と爪ケア用化粧品、ボディ用アロマローションとオイル、石鹸など。
事件番号:(2018)最高法行再26号
【審理の要点】
本件商標は常用の容器として識別されやすく、これを第3類の商品に指定して商標の持つべき識別性が欠けているが、出願人は本案件の審理段階で多くの商標の使用証拠(具体的に、販売協議、領収書及び配送リスト; 税関申告書及び税金納付書;有名な雑誌/画報の広告宣伝;広告費リスト及び広告掲載状況資料、広告発注書及び領収書;国家図書館が発行した「国家図書館科学技術調査センター専用印鑑」を押印した検索報告書、文献及び記事メディアの報道;売上ランキング表;受賞した栄誉などを含む)を提出した。これら証拠によって、「j'adore 」香水が中国市場に進出してから、出願人が本件商標に対して広範な宣伝および強力な普及を行い、その商標が香水の商品において一定の知名度を持ち、出願人と唯一の対応関係を形成していることを証明することができる。本件商標は香水の商品において実際に使用することにより識別性が得られ、商品の出所を区別する役割を果たすことができる。しかし、出願人が提出した証拠は香水以外の他の商品(石鹸など)に使用することで識別力を得たことを証明することができない。そのため、本件商標は香水以外の商品(石鹸など)には登録することができない。
【コメント】
商標の知名度と識別性は実際に使用されている商品 /サービスにしか及ぶことができません。本件で出願人が提供した使用証拠は「石鹸」などの他の商品ではなく「香水」商品にのみ集中しているため、本件商標は他の指定商品に使用することで識別性を得られておらず、登録することができない。商標の使用を効果的に証明するためには、使用する商標、商品またはサービス、使用者、使用日などの正確な情報を使用証拠に明確に示しなければならない。
<事例2>
商標登録番号:20426843
本件商標: (文字商標)
指定商品:お茶、お茶の代用品として用いられる花や葉、お茶の飲み物、アイスティー事件番号:(2020)京73行初18054号
【審理の要点】
「茶」は茶葉の略称である。「小罐」とは通常、製品の包装を指す。「小罐茶」は文字通り小罐で包装されたお茶を意味するため、製品の主要原料、包装特徴を直接に表し、商標の識別性に欠けている。中国商標法第11 条第1項の規定に基づき、商標として登録してはならない。しかし、本件商標の登録者が本案件の審理段階で提出した証拠(具体的に、販売契約と領収書、入賞した栄誉、広告契約、メディア報道、市場研究報告、広告監査報告、多くの民事判決書などを含む)は、本件商標が登録時に関連公衆の中で高い知名度を得たことを証明することができ、本件商標と登録者は対応関係を形成し、使用により識別性が得られ、商品の出所を区別する役割を果たすことができる。そのため、本件商標は商標法第11条第2 項の「使用により識別力を得ており、識別しやすい」に関する規定に合致し、商標として登録することができる。
【コメント】
本件商標の登録者は2015年から本件商標を使用し始めており、2016年に商標登録出願を提出し、2017年に本件商標が登録された。その後、第3者は識別力に欠けているという理由で無効審判を請求し、2021年に北京知的財産権裁判所の審理を経て、本件商標は最終的に有効を維持した。出願人が2015年から2021年まで商標を使用し続けている間に、商標の識別性は動的に変化し、持続的に強化される過程である。裁判所は商標が使用によって識別性を得たかどうかを判断する際に、2016年~ 2017年の商標出願登録時の状態に限らず、案件審理時の実際の状態を考慮して、登録者の合法的権益をよりよく保護し、行政と司法資源も節約した。
Ⅳ.まとめ
「商標の使用による識別性の獲得」の証明に関する案件では、商標使用の時間、範囲、強度などの要求はいずれも比較的に高く、出願人は通常、多くの人的・物的資源を費やす必要があり、このような商標が登録できるために複数の段階(たとえば、拒絶査定、異議、無効、訴訟の段階)を経ることがある。よって、出願人は商標出願をする前に関連する要求とリスクを理解しておくほうがよいと思う。確かに登録が必要な場合、出願人は商標に他の識別力を持つ要素を追加することを考慮することができる。他の要素または商標全体が商品やサービスの出所を区別する役割を果たすことができる場合、この商標は登録することができる。


