意匠権侵害が成立するのは、一般に次の2つの条件を満たす場合である。
(1)被疑侵害製品の設計が登録意匠の設計と同一もしくは類似していること、
(2)被疑侵害製品が登録意匠の製品と同類(または類似)の製品に属すること。
したがって、裁判実務において、意匠の同一もしくは類似、および製品が同類の製品に属するかどうかをどのように判断するかが、意匠権侵害事件の難点と核心になる。本稿では、これらの問題を検討する。
1.意匠権の権利範囲を正確に決定し、「全体比較、要部観察、総合判断」の方式で同一もしくは類似を判断する。
1.1意匠公報における図面または写真を合理的に解釈し、意匠権の権利範囲を正確に決定
中国特許法(※1)では、意匠出願の際に設計の図面または写真などの書類を提出する必要があるが、請求の範囲、明細書などの文書の説明を提出する必要がない。
(※1.中国において特許法は、特許、実用新案および意匠を含む法律である。)
そのため、意匠権は文書の記載により保護範囲を限定することではなく、図面または写真に表示される当該意匠の製品に準ずる。しかし、裁判実務では、文書の記載により意匠権の技術的特徴を概括することが不可欠である。
次に、特許法により保護される意匠は独創性があるデザインであるべきで、即ち、独創性のある部分が意匠権の新規な点であるが、独創性のない部分は、権利範囲の決定に一定の制約を与える。意匠権登録公報の図面における考案者の独創性がある設計部分をどのように合理的に解釈するかが、意匠権侵害判定の核心問題の 1つである。実務では、通常以下の点を考慮する。
(1)公知の先行意匠の排除
多くの意匠は従来意匠を改良したものである。登録公報の図面に基づいて権利範囲を決定するときは、まず公知の先行意匠の部分と独創性のある部分を区分し、公知の部分を権利範囲から除外して、従来の意匠と異なる意匠権者の独創の部分を決定しなければならない。この過程において、意匠出願のときに提出された「設計要点図」は意匠の独創性を判断する重要な根拠である。
(2)非意匠の排除
製品の内部構成、製品の大きさ、材料本来の色、図案の内的意味など、外観に属さない設計要素については、美感を起こさせる外観を有しないため、意匠権の範囲からも排除しなければならない。
(3)機能的意匠の排除
意匠は工業製品の外観の装飾性または芸術性の設計であるため、意匠権の保護範囲を決定するとき、製品の機能による外観の特徴と本当に製品の外観の美感に寄与する部分とを区分すべきである。なお、対象製品の意匠が同時に装飾性と機能性の両方の特徴を持つとき、意匠権の保護範囲から排除しないほうがよいと思われる。
(4)製品の設計の自由度を考慮した総合判断
対象製品の設計の自由度が比較的に大きい場合、保護範囲を広く解釈すべきである。対象製品の設計の自由度(例えば、自動車、冷蔵庫など)が比較的に小さい場合、意匠権の保護範囲を狭く解釈すべきである。
1.2「全体比較、要部観察、総合判断」の方式で同一もしくは類似を判断する。
意匠は製品の形状、図案またはその結合、および色と形状、図案の結合などの具体的な外観からなり、全体的な美感に依存する。したがって、2つの意匠が同一もしくは類似であるかどうかを比較する際、まず、意匠の局部だけに拘らず、全面的に比較しなければならない。
また、従来の意匠と全く違う意匠は極めて少なく、多くの意匠は従来設計の上で完成したものである。そのため、従来設計を基に作成された新しい設計は意匠権者の独創性を現し、その意匠出願が新規性を有する裏づけとなるものである。このような理由で意匠権侵害を判断するとき、「全体比較、要部観察、総合判断」の判断方式を採用すべきである。
具体的にいうと、意匠権侵害の成立には、以下の条件を満たすべきである。
(1)製品の独創性がある設計要部が同一もしくは類似であること。
(2)同一もしくは類似の設計要部は製品の外観の主な部分であり、または設計要部は製品の外観の主な部分ではないが、製品が全体の外観で同一もしくは類似であること。
2.一般消費者の視角から製品の同類および意匠の同一もしくは類似を判断すべき
意匠の同一、類似の判断は個人の感性や主観的な要素に大きく依存するが、知識、認知能力の差異によって、異なる人は異なる判断を下すことがあるため、比較対象が同一もしくは類似であるかどうかを判断する人の選定は非常に重要である。
裁判実務において、意匠製品の一般消費者により、同一もしくは類似を構成するかどうかを判定することは、意匠権の保護目的に適合する。ここで、一般消費者は「公衆」ではないことに注意する必要がある。中国審査基準により、一般消費者は係争意匠の出願日前の同じ種類または類似種類の製品の意匠およびその常用の設計手法について常識的理解を有するものでなければならない。
3.「国際意匠分類表」を参照して製品が同類であるかどうかを総合的に認定
意匠は製品と結合してはじめて特許法の保護を受ける。意匠権侵害を判定するとき、まず、被疑侵害製品が意匠製品と同類の製品であるかどうかを決定すべきである。同類に属する場合だけ意匠権侵害の判定を行い、同類に属しない場合は意匠権侵害の認定を行わない。
製品が同類に属するかどうかをどのように認定するかについて、実務において、「国際意匠分類表」(以下、「分類表」と略称する)の分類原則は製品の機能に基づくものである。この分類体系は、工商業分野で用いられる分類や普通の消費者が習慣に従って思い浮かべる製品の分類と異なる。よって、単純に「分類表」を基準に認定すると、現実から切り離された判断になるおそれがある。一方、「分類表」を完全に廃止すると、意匠の審査標準と意匠権侵害の判定標準との間の関連を切断し、意匠制度の安定性に重大な損害を与えるおそれがある。
したがって実務では、製品の種類の同一性を判断する際、消費者の消費習慣から生じる分類の考え方、製品の性能・用途・材料、及び「分類表」を総合的に考慮する必要がある。


