中国では、特許権・商標権侵害に行政と司法の2つの救済ルートがある。今回の改正動向は、特に行政機関の権限強化に重点を置く。

SIPOは2011年11月に特許法改正作業を開始し、2012年8月10日に第4次改正案を公表して意見を募集した。特許保護及び法執行の強化を中心とするもので、主な提案は次のとおりである。

主な改正内容

(1)裁判所及び行政機関に証拠の調査・提出を求める権限を与え、協力を拒否する行為に制裁を設ける。裁判所は権利者の請求により、被告に被疑侵害製品、帳簿、記録その他の資料を提出させる。裁判所に関する規定は既に民事訴訟法にあるため、実質的な変更点は行政機関の調査権限である。

(2)特許行政管理部門に損害賠償額を決定する権限を認める。行政調停に強制執行力がない問題を解決し、権利者を保護し、訴訟の反復や行政・司法資源の浪費を避けることを目指す。ただし、その決定が終局的か、どの手続に従うか、司法審査を要するかは明確ではない。

(3)無効決定の効力発生日と後続手続を明確化し、権利行使に要する期間を短縮する。特許復審委員会の決定は公告時に効力を生じ、裁判所及び特許行政管理部門はそれに基づいて速やかに侵害紛争を処理する。

(4)故意侵害への懲罰的賠償を導入し、裁判所及び特許行政管理部門に、賠償額の最大3倍までを命じる権限を与える。

(5)市場秩序を乱す疑いのある侵害を、特許行政管理部門が職権で調査・制止し、行政処罰を科すことを認める。執行費用を減らし、効率を高める狙いである。

(6)全国に重大な影響を及ぼす侵害について、国務院特許行政部門が調査を組織する。

改正案へのコメント

(1)行政機関の権限を拡大し、特許紛争の受理・判断において裁判所に近い立場を与える。権利者にとっては、権利付与と執行を一体化した行政ルートにより保護手段が増える。行政手続で得た証拠を損害額の立証に利用できるなら、証拠に関する改正は特に有益である。

(2)筆者は、行政決定を司法が審査する制度から、行政・司法の並行的な執行に移行することは、TRIPS協定との整合性に疑問を生じさせると考える。独立、公正、透明な特許制度、権利付与と紛争解決の職務分担、司法による終局判断、統一的な執行手続にも支障を及ぼすおそれがある。

(3)司法実務を見ると、特許訴訟は商標・著作権紛争とは異なり、緩やかで安定した増加を示している。中国の登録特許数は多いものの、品質には改善の余地がある。行政機関が権利付与と紛争処理を兼ねることは、不当な介入のリスクにつながり得る。公平、透明、平等で権威ある紛争解決ルートが特に重要である。

執行強化の措置は前向きに評価できるが、機関間の権限配分など基本制度の変更は慎重かつ総合的に検討すべきである。学界、司法界、弁護士界で大きな議論を呼び、立法機関内の合意形成も容易ではないと考えられる。したがって、他の事情が変わらなければ、これらの改正が円滑に進むことは難しいと筆者は予測する。