1.はじめに
特許出願において、出願人はいくつかの自発補正の機会を有する。例えば、実体審査請求時および実体審査段階に入った日から3ヶ月以内や、PCT出願の国家段階移行時、あるいは分割出願時に自発補正の機会が認められる。自発補正は一般に、拒絶理由通知に対する応答時に認められる補正に比べ、より自由な補正が許される。例えば出願人は、元の開示範囲内の特徴を補正することや、比較的狭く限定されている保護範囲を補うために文言を削除したり、新たな請求項を追加したりすることを、出願時の明細書及び特許請求の範囲に記載された範囲を超えない限りにおいてすることができる。現在、補正要件違反に対する審査は厳格化されており、自発補正がどのような場合には補正要件違反とならないかの判断は難しい。
以下では、中国特許法及び審査基準の関連規定に基づき、具体的な案件を例としてこれを分析する。
2.判断原則
中国特許法第33条は「出願人は、その特許出願の書類について補正をすることができるが、発明及び実用新案の特許出願の書類に対する補正は、出願時明細書及び特許請求の範囲に記載された範囲を超えてはならず、…」と規定する。実際の運用においてはこの基本原則は抽象的で、把握することが容易ではない。そのため、審査基準には許可されない具体的な類型として追加、変更、削除などが挙げられた。
審査基準の第二部分第八章第5.2.3.3節に、許可されない削除が下記のとおり規定されている。
「独立請求項から、出願時において発明の必要な技術的特徴として明確に認定された技術的特徴、即ち、出願時明細書において一貫して発明の必要な技術的特徴として記述されていた技術的特徴を削除すること。」
審査基準の第二部分第二章第3.1.2節では「必要な技術的特徴とは、発明又は実用新案についてその技術的課題を解決するために不可欠な技術的特徴をいい、その総和は、発明又は実用新案の技術案を構成するに足るものであって、従来技術における他の技術案から区別させるようにしている」ことが規定されている。
上記からわかるように、独立請求項の技術的特徴の削除が補正要件違反になるか否かは、削除された技術的特徴が「必要な技術的特徴」であるかどうかで判断すべきである。また、必要な技術的特徴かどうかを判断するには、その技術的特徴を本願の技術案に置き、解決しようとする技術的課題を総合的に判断し、かつ従来技術における他の技術案と比較する必要がある。
次に、具体的な案件を例に、技術的特徴の削除が補正要件違反になるか否かを説明する。
3.案件の紹介
発明の名称:ワーク搬送装置
【請求項1】
少なくとも1つの無端状に循環する搬送ベルト(4)と、
搬送ベルト(4)をガイドするフィクスドガイド装置(6)とを備え、
ワーク(2)が形状および/または摩擦により搬送ベルトの上部ストランド(4’)に保持され、
前記ガイド装置が、搬送部分に沿って前記搬送ベルトの上部ストランド(4’)を保持するガイドレール(8)を含み、
前記ガイドレール(8)の上側に、基材とベルトの形状に合わせた溝(8’)とを設けており、
前記基材に、圧縮空気ソースに繋がる複数の排気口(10)を設けている、
通過中のワーク(2)の露出側面(2’)を成型加工する工作機械用のワーク搬送装置(1)であって、
搬送対象となるワーク(2)に備えられたガイド溝(2”)内に噛み合うように設けている線状のガイド素子(12)と、
少なくとも1つのサポートスキッド(16)と、
少なくとも1つの弾性的に取り付けられた圧力レール(18)をさらに備え、
前記サポートスキッド(16)が幅方向に前記搬送ベルト(4)に近接してそれと大体平行に延びており、前記サポートスキッド(16)の上側と前記搬送ベルト(4)の上部ストランド(4’)の上側がほぼ同じ平面になり、
前記圧力レール(18)が前記サポートスキッド(16)の上方にあり、それと大体平行に延びていることを特徴とするワーク搬送装置。
[自発補正内容]
実体審査段階に入った日から3ヶ月以内に、出願人は自発補正を行い、前記請求項1の「ベルトの形状に合わせた溝(8’)とを設けており」(特徴Aと略称)の文言を削除するとともに、この削除した特徴Aを含む従属項を追加した。
[審査官の主張]
実体審査段階において、審査官より、上記補正が元の明細書及び特許請求の範囲に記載された範囲を超えていると指摘された。その理由は、特徴Aを削除した発明が元の発明と比べて実質的な区別を有し、元の明細書と特許請求の範囲に記載された情報から直接的かつ一義的に特定することができないためである。審査官は以下の見解を指摘し拒絶査定を下した。
①補正要件違反になるか否かを判断する基準は「削除された技術的特徴が必要な技術的特徴であるか否か」ではなく、「補正後の内容が元の明細書と特許請求の範囲に明確に記載されるか、或いは、元の明細書と特許請求の範囲に記載された情報から直接的かつ一義的に特定することができるかどうか」である。
②元の出願書類では、溝(8’)は終始一貫してガイドレールの上側に位置しており、それ以外に他の類型、他の構造のガイドレールが記載されていない。しかし出願人が特徴Aを削除した場合には、前記ガイドレールの上側には、上述の溝があってもよいし、なくてもよいということになる。このような広範囲のガイドレールは、元の出願書類に記載された範囲を超えていることが明らかである。
[出願人の主張]
出願人は、削除された特徴Aが本願発明の必要な技術的特徴ではないので、上記の補正が元の明細書と特許請求の範囲を超えていないと主張した。その具体的な理由は次の通りである。
①必要な技術的特徴とは、発明又は実用新案でその技術的課題を解決するために不可欠な技術的特徴をいい、その総和は、発明又は実用新案の技術案を構成するに足るものであって、従来技術におけるその他の技術案から区別させるようにしているものである。特徴Aの存在は請求項1を従来技術から区別させることができない。
②本願発明において、特徴Aが必要な技術的特徴であることは明示されていない。
③特徴Aは、本願発明における技術的課題の解決に不可欠なものではない。本願発明における技術的課題は「加工対象となるワークが高い搬送速度で精確かつ安定に搬送される」ことである。溝(8’)がなくても、搬送ベルトは同様にガイドレール(8)に循環して回転することができ、かつ、「ワーク(2)に備えられたガイド溝(2”)内に噛み合うように設けている線状のガイド素子(12)」という技術案を結合して搬送および加工中のワーク(2)の位置付けを改良する。サポートスキッド(16)の上側と前記搬送ベルト(4)の上部ストランド(4’)の上側が大体同じ平面になることは非常に精確な参考平面を提供し、加工中のワーク(2)を安定にサポートする。圧力レール(18)とサポートスキッド(16)がともに、ワーク(2)を安定にガイドし、精確に位置決めし、加工中の位置ずれを防止し、「加工対象となるワークが高い搬送速度で精確かつ安定に搬送される」という技術的課題を解決することができ、ワーク(2)の加工に対する低公差の技術的効果を実現できる。
④特徴Aを削除した後、請求項1中の他の特徴を補正·補足しなくても、同様に「ワーク搬送装置が高い搬送速度を有し、搬送対象となるワークを低公差で加工できる」という技術的効果を実現できる。
[結果]
拒絶査定不服審判で出願人の主張が認められ、本願発明に対する拒絶査定が取り消された。
4.まとめ
独立請求項を補正する場合、請求項から削除された特徴が発明の「必要な技術的特徴」ではなく、他の特徴と相互に関連性がなく、相互に独立する場合には、このような補正は出願時明細書及び特許請求の範囲に記載された範囲を超えることはなく、中国特許法第33条の補正要件を満たす。
このような特徴の削除は補正要件に違反しないが、自発補正が可能な時期に行うべきである。拒絶理由通知への応答時にこのような補正を行った場合、審査官は特許法実施細則第51条第3項の規定により、その補正が拒絶理由通知に指摘された欠陥のみに対するものではないことを理由にその補正を認めない。従って、出願人は自発補正の機会を把握して出願書類を適切に補正するべきである。




