自社の製品にとって脅威となりうる中国特許出願を発見した場合、この特許出願の権利化を阻止する措置を講じることができる。権利化阻止のための措置として、情報提供制度がある。情報提供は具体的には、第三者が特定の特許出願を拒絶に導きたい場合に、その特許出願が特許要件を満たしていないことを説明し、審査に協力する制度である。

中国では、情報提供制度は公衆の意見と呼ばれる。

1.関連法律規定

(中国特許法実施細則48条)

中国では、何人も、発明特許出願の公開日から特許権付与の公告日までの期間、特許法の規定に合致しない出願について、中国特許庁(SIPO) に意見を提出し、かつ理由を説明することができる。

(中国審査基準第二部分第八章4.9)

特許法の規定に合致していない特許出願に対して特許庁に申し立てられた意見は、何人によるものであっても、審査官が実体審査の実施時に考慮できるように、当該出願書類ファイルに保管されなければならない。審査官が特許権の付与通知を発行した後に受けた公衆からの意見については、これを考慮しなくてもよいとする。公衆の意見に対する特許庁の対処状況は、意見を申し立てた公衆に通知する必要がない。

上記の規定において、提供者は実名ではなく、匿名により情報提供をしてもかまわない。

また、情報提供の対象は発明特許出願のみに限られる。この点はアメリカ、日本よりも制限が厳しい。アメリカでは、特許出願、意匠出願、植物特許出願のいずれに対しても情報提供が可能である。日本では、権利付与前の特許出願および実用新案登録出願のみではなく、権利付与後の特許および実用新案に対しても情報提供の機会が与えられている。

また、中国では、情報提供の取り扱いについて、中国特許庁は情報提供者に通知しない。この点も日米と異なる。日本では、情報提供者がフィードバックを希望する場合、審査官は、審査に利用されたか否かのフィードバックを書面で情報提供者に通知する。アメリカでは、提出資料が手続要件を満たさない場合、情報提供者の電子メールアドレスの記載があれば、電子メールで不適合の事実と理由を通知する(採用の有無に関する通知とは異なる)。 2.情報提供資料の提出方法

(1)提出の時期について

発明特許出願の公開日から特許権付与の公告日までの期間である。つまり、公開後、審査中、審判中のいつでも可能である。

(2)情報提供の様式について

実務では、意見書の様式1を使う。

現在、情報提供資料のオンライン提出が認められる。オンライン提出の場合には、意見書の様式を使わなければならない。一方、意見書とともに関連の証拠資料を提出する場合には、オンライン提出は認められない。従って、関連の証拠資料がある場合には、書面による提出しかできない。

(3)情報提供の理由について

中国特許法は、情報提供の理由について明確に規定していないが、特許出願に対し拒絶理由があると思えば、当該拒絶理由を情報提供の理由として記載し、情報提供を行うことができる。

例えば,新規性欠如,進歩性欠如,実施可能要件違反、ダブルパテント、単一性要件違反2、サポート要件違反などである。

(4)費用について

官庁手数料は不要である。

(5)提出先について

中国特許庁(SIPO)の受理部門が情報提供資料を受理する。情報提供資料はSIPOへ郵送または直接持参で提出して行う。

3.情報提供資料が審査官に採用されるコツ

(1)実務的には、審査官が先行技術調査を行う前に情報提供資料を提出すれば、審査官が当該資料を参照し、受け入れる可能性が高いと思われる。従って特許出願が公開されてから、早めに情報提供をしたほうがよい。

(2)情報提供資料に、非特許文献、中文•英文以外の言語で記載された引用文献が含まれていれば、審査官が実体審査時にこれらの引用文献を参考にする確率が高くなると思われる。

(3)外国語で記載された引用文献を提出する場合には、関連する箇所の中訳文をあわせて提出するとよい。

(4)情報提供資料を作成する際には、情報提供の対象出願と引用文献との構成要件対比表(claim chart)も記載することで、関連性を理解しやすく、審査官に採用される確率が高まると思われる。

(5)情報提供資料を提出する際に、新規性欠如や進歩性欠如を情報提供の理由とする場合には、対象特許出願の出願日前の公開された刊行物、例えば特許文献や論文を利用するほうがよい。その他の公知公用の証拠を利用する場合、審査の段階で提供者が審査に参加できず、証拠の確認をすることができないので、審査官に採用される可能性が低い。

現在、中国特許庁では情報提供の採用率に関するデータは公開されていない。日本では情報提供を受けた案件の72%において、情報提供された文献等を、拒絶理由通知中で引用文献等として利用している(平成23年 12月に審査された案件について調査)3。

前述したように、情報提供の内容が採用されたかどうかなど、情報提供に対する特許庁の対処状況は、情報提供者に通知する必要がない。これを知るための方法として、情報提供後に発行された拒絶理由通知などを確認することが考えられる。情報提供の対象となる中国特許出願の出願日が2010年2月10日以降である場合、中国特許照会システム4を利用して拒絶理由通知を入手することができる。このシステムは中国語、英語、フランス語、日本語、スペイン語、韓国語、ロシア語のインターフェースがあり、毎週更新される。

4.情報提供のメリットおよびデメリット

(1)メリット

①特許出願の権利化を早期に阻止することができ、又は、特許出願の権利付与期間を遅らせることができる。

②所要の費用が無効審判より低く、手続きが簡単であり、匿名で情報提供することも可能である

(2)デメリット

①第三者は情報提供した後、審査に参加できない

中国審査基準では、情報提供者の情報に対し、審査官は参考することができるが、フィードバックをしない。言い換えれば、情報提供者は情報提供資料を介して審査官に単方向的にしかコミュニケーションができない。情報提供者がSIPOに対して手続きを進める当事者になれないのである。情報提供は単純な攻撃を行う方法として適しているが、重要な説明を要したり、微妙な問題を抱えているケースの場合、審査に参加できないために、情報提供者にとって満足できる結果に繋がらない可能性もある5。

②実体審査段階の補正制限は無効段階の補正より厳しくない。出願人は情報提供資料に反映された拒絶理由に基づいて、クレームをより良い状態に補正する機会を得られるので、情報提供が、却って競合他社の出願(クレーム)をより強くする可能性がある。

③情報提供の提出により、対象出願の出願人が対象出願の権利化をさらに重視する可能性がある。ひいては、出願人がもともとは予定していなかった分割出願を行い、複数の特許を取得してしまう結果となる可能性がある6。

5.四つの制度の比較

中国:SIPO

根拠は特許法実施細則第48条です。対象は審査中の発明特許出願で、出願公開から権利付与の公告まで提出できます。匿名・オンライン提出が可能ですが、関連証拠を添付する場合は前述の書面提出の制限があります。実務では意見書の様式を使用し、関連部分の中国語訳または英訳が望まれます。官庁手数料は不要です。原刊の比較では、無関係の第三者による資料閲覧は不可とされ、採用に関する直接のフィードバックもありません。受理総件数は不明です。中国では1992年に特許異議制度が廃止されました。

米国:USPTO

根拠は35 U.S.C. 122(e)および37 CFR 1.290です。仮出願を除く発明特許・意匠特許・植物特許の出願と継続出願が対象で、未公開または放棄された出願も対象となり得ます。提出期限は、許可通知発送日と、「公開から6か月後または最初の請求項拒絶日のいずれか遅い日」のうち、早い日より前です。匿名・オンライン提出が可能で、PTO/SB/429または同等の文献一覧を用います。外国語資料の関連部分には英訳が必要で、信頼できる機械翻訳も利用できます。

原刊記載の手数料は文献10件ごとに180米ドルで、所定の条件を満たす初回提出が3件以下の場合は免除されます。公開された出願ファイル内の資料は閲覧できます。電子メールアドレスがある場合、不適合の事実と理由が通知されることがありますが、審査に採用されたかどうかの通知とは異なります。原刊の受理件数は約1,000件です。権利付与後の争訟手続が存在することが、件数の少なさの一因として挙げられています。

欧州:EPO

根拠はEPC第115条および規則114です。出願公開後、係属中の手続において、欧州特許出願または特許の特許性について第三者が意見を提出できます。実用新案の制度ではありません。匿名・オンライン提出が可能で、書簡またはオンラインフォームを利用します。英語・ドイツ語・フランス語で提出し、必要に応じて関連訳文を付けます。官庁手数料は不要で、資料は公開されます。受領確認はありますが、その後の処理を第三者に個別通知するものではなく、提出者が手続当事者になることもありません。原刊の件数は約1,000件で、異議手続の存在にも言及しています。

日本:JPO

根拠は特許法施行規則第13条の2・第13条の3、実用新案法施行規則第22条・第22条の2です。特許・実用新案の出願および登録後の権利について情報提供ができます。匿名・オンライン提出が可能で、様式第20を使用し、関連部分の和訳が望まれます。官庁手数料は不要です。資料を閲覧でき、提供者は審査での利用についてフィードバックを希望できます。原刊の件数は約7,000件です。2004年の当時の特許異議制度廃止が、情報提供増加の一因とされています。

6.むすび

SIPOは情報提供の総件数を公開していませんが、2012年の200余名の審査官に対する調査では、80%以上がそれまでに受けた情報提供は5件未満でした。多くの審査官は、情報提供が審査の質の向上と審査期間の短縮に役立つと考え、歓迎する姿勢を示していました。

情報提供制度は多くの国や地域で重視されています。2012年7月にWIPOがPCT国際出願の情報提供制度を導入し、台湾でも2013年1月施行の新特許法で導入されました。中国でも知的財産への関心、企業による活用、出願件数の増加に伴い、審査を支援する制度の強化・改善が求められています。筆者は制度の不足を補い、より開かれた利用しやすい制度を構築することを期待します。

[Note]

1.意見書の様式はhttp://www.sipo.gov.cn/bgxz/から入手できる。 2.日本、EPOにおいて、情報提供の理由には単一性要件違反が含まれない。 3.https://www.jpo.go.jp/seido/s_tokkyo/tt1210- 037_sanko2.htm 4.中国特許照会システムのウェブサイト:http://cpquer y.sipo.gov.cn/index.jsp?language=ja_JP 5 .中谷智子 · 長谷川洋 · ウッズジェフ [他]、日本、欧州、米国における権利化阻止手段と特許無効化手段、『発明』、発明推進協会、2013年No.1、47頁 6.同5 7.http://www.uspto.gov/aia_implementation/statistic s.jsp 8.同5 9.http://www.jpo.go.jp/seido/s_tokkyo/tt1210- 037_sanko2.htm 10.李富昌在专利审查公众意见提交制度中引入适度反馈之探讨;中国发明与专利 2012年第10期、77頁