現在、ラテンアメリカ市場は世界的にも関心が高まっている。ラテンアメリカの34の国・地域の中でも、特にアルゼンチン、ブラジル、メキシコが多くの外国企業の注目を集めている。特許保護は企業戦略の刃として、ラテンアメリカ市場への注目度の向上に従ってより大きな役割を果たしつつある。筆者は上記のラテンアメリカ三国の特許制度概要を紹介し、ラテンアメリカの特許制度に関心を持つ特許出願人に参考情報を提供する。
1.アルゼンチンの特許制度概要
アルゼンチンはパリ条約の加盟国であるが、現在はP CTの締約国ではない。アルゼンチンの特許制度は発明、実用新案、および意匠を保護することができる。そのうち、出願人は第24481号法律(Law 24481)と法令 260/96(Decree 260/96)により発明および実用新案の保護を得ることができ、第16478号法律(Law 16478)と法令6673/63(Decree 6673/63)により意匠の保護を得ることができる。
アルゼンチンでは、発明特許出願に対して実体審査があり、発明特許出願の公開後60日以内に、第三者による異議申立が可能である。発明者が通信方式を通じて発明を開示する行為や、国内または国際展示会に発明を出展する行為について、1年の新規性の猶予期間が認められる。
発明特許の保護期間は20年であり、出願日から起算される。実用新案の保護期間は10年である。意匠の保護期間は5年で、この期間を2回延長することができ、毎回5 年である。つまり、意匠について最長15年の保護を得ることができる。単一性の要件を満たすことを前提に、1つの意匠には多くとも、同じ外観についての50の設計を含めることができる。
ところで、2012年12月に、アルゼンチン特許庁は細則318(Regulation 318)を発表し、コンピュータープログラムに関する特許保護が規定された。上記規定はヨーロッパ特許庁(EPO)の関連規定と類似点がある。具体的には、コンピュータープログラム自体、あるいはコンピュータ読取可能媒体に記憶されたコンピュータープログラムは特許を受けることもできないし、既知のコンピュータを採用して上述のコンピュータープログラムを実行する方法も特許を受けることができない。
しかし、ある発明が技術的解決策を提供し、または従来技術に比べて技術的貢献をもたらすのであれば、この発明がコンピュータープログラムに関する場合でも、その特許可能性を直接に否定することができない。たとえば、次の場合には、コンピュータープログラムに関するが、技術的特徴を有する技術的解決策とみなすことができる。
•コンピュータによって伝送する物理パラメータの処理
•コンピュータシステムの操作性能を高める方法
•コンピュータ間の接続を改善する方法
2.ブラジルの特許制度概要
ブラジルはパリ条約の加盟国でもあり、PCTの締約国でもある。ブラジルでは、出願人は1996年5月に公布された第9279号法律(LawNo.9279)により、発明、実用新案や意匠などの知的財産権への保護を得ることができる。発明特許の保護期限は出願日から20年または登録日から10年(長い期間により計算)で、実用新案の保護期限は出願日から15年または登録日から7年(長い期間により計算)である。意匠の保護期間は10年で、3回延長することができ(各回5年)、保護期間は最大25年となる。日本や中国に比べて、ブラジル特許庁(INPI-BR)は意匠に対してより十分かつ柔軟な保護期間を提供する。
ブラジルは世界で4番目に特許制度を構築した国であるが、その審査実務は十分とは言えず、審査時間が長い。筆者が扱った多数のブラジル特許出願のうち、2002年にPCTルートを通じてブラジル国家段階に移行した特許出願は、2013年にようやく初回の拒絶理由通知が発行されており、11年間かかっている。また、次の点にも注意が必要である。すなわち、ブラジル特許庁は拒絶理由通知を出願人に直接に発送するのではなく、ブラジル特許公報に掲載するので、出願人またはその代理人は拒絶理由通知を得るために、常にブラジル特許公報をウォッチングしなければならない。
ブラジルの特許審査の上記現状を鑑み、ブラジル市場に着目する出願人は、どのようにブラジル出願の審査プロセスを加速できるか、興味を持つと思われる。この問題について、ブラジル特許庁の規定によれば、下記1~3 のいずれかに該当する場合であれば、出願人による加速審査(早期審査に相当)請求が考慮されるとされる。
1.出願人が満60歳以上で、個人による出願である
2.特許出願に関連する製品について、権利侵害行為が存在する可能性がある
3.特許出願が権利化されることが、公的機関に資金を申請する前提条件となっている
上記3.については、ブラジル公的金融機関(Brazilia n official credit institution)に資金を申請するという前提条件だけで、加速審査請求が考慮される。しかし、中国の公的機関に資金を申請するのでは、ブラジルの加速審査請求の条件を満たさない。そのため、外国出願人にとって、ブラジルで加速審査の請求は困難となりうる。
3.メキシコの特許制度概要
メキシコはパリ条約の加盟国でもあり、PCTの締約国でもある。1991年に制定されたメキシコ工業所有権法により特許、実用新案および意匠が保護され、保護期間はそれぞれ20年、10年、15年である。
出願人が特許出願をしてから3ヶ月以内に、あるいはメキシコ特許庁(IMPI)から特許・実案・意匠間の出願種別変更が要求されてから3ヶ月以内に、特許出願を実用新案または意匠の出願に変更することができ、あるいは逆の変更もできる。中国特許法では、特許出願をした後に上記の出願種別変更を行うことは認められない。
無効手続きについて、通常の無効理由のほか、メキシコ特許法には下記のような規定もある。すなわち、登録公告の日から5年内に、審査の過程において当該出願が放棄されたことがあり、権利付与に深刻な誤りや過失があり、または特許権がこの特許を取得する権利のない人に付与される場合、無効審判を請求することができる。これも中国の特許制度と異なる。中国の無効理由は特許出願自体に対するもののみであり、権利帰属問題や審査中の手続きの欠陥は考慮されない。
ラテンアメリカ諸国の特許庁において、PPHプログラムを利用する国は少ないが、メキシコ特許庁はその中の1 つである。現在は、すでに中国、カナダ、スペイン、日本、アメリカ、韓国、シンガポールの特許庁とPPH協定を締約した。これらの国の出願人は本国の登録特許に基づいて、メキシコの特許審査を加速することができる。
メキシコでは、コンピュータープログラムやビジネスモデル自体は特許の対象として認められない。しかし、コンピュータープログラム、ビジネスモデル、電子商取引などに関する技術的解決策が実質的な技術的効果を有する場合、出願人は相応の特許出願をすることができる。コンピュータープログラムに関する発明の保護をめぐり、例えばメキシコ特許庁とアメリカ特許庁とでは判断基準に相違があるため、PPHプログラムを利用してアメリカ登録特許に基づきメキシコの審査プロセスを加速しようとする場合には注意が必要となる。
4.まとめ
韓国・日本・米国・中国・欧州の5カ国(IP5)と異なり、上記のラテンアメリカ三国は伝統的な意味での特許制度の強国ではない。そして、ラテンアメリカ国の公用語(例えばアルゼンチンとメキシコはスペイン語、ブラジルはポルトガル語など)は、世界範囲で通用する言語ではないことから、言語の不便性も特許制度への理解に支障をもたらす。
そのために、ラテンアメリカ諸国で特許出願を効率よく行い、より価値のある特許保護を得るために、出願人は特許出願にあたって、できるだけラテンアメリカへの出願経験を持つ本国の事務所や、ラテンアメリカの事務所に助けを求めるとよいであろう。



