特許部・弁理士康泉
1.判例の概要
2013年6月27日に、江蘇省高等裁判所は、発泡ニッケルに関する特許権侵害事件(以下、「発泡ニッケル事件」という)について最終審( )を下した。この事件は最高 ※ 裁判所が公布した「2013年度中国裁判所知的財産権保護10大事件」の1つである。本件の一審、二審および再審(最終審)では、均等侵害の成否判断の焦点の1つは、本件特許発明とイ号発明における真空度の1桁の差(10 倍の差)が均等な技術的特徴となるかどうかにある。
※最終審の事件番号は(2011)蘇知民再終字第1号。
江蘇省高等裁判所は、最終審で以下のように認定した。
「本件の訴訟中の証拠および当事者双方の主張により、本件特許発明とイ号発明のベース真空度および作業真空度はそれぞれ1桁の差(10倍の差)があり、明らかに違う数値に属することを認定した。2種類の真空度の役割および/または効果は本件に係るマグネトロンスパッタリング過程中で相互に影響しあうため、異なるベース真空度および作業真空度によって奏される全体効果がほぼ同じであることを直接に認定することができない。本件では、イ号発明の「ベース真空度および作業真空度」という技術的特徴は、本件特許の請求の範囲に記載された「ベース真空度および作業真空度」という必要な技術的特徴と同じでもないし、均等でもない。従って、イ号発明は本件特許権の範囲に含まれず、権利侵害とならない。」
科学技術の発展や法律意識の向上に伴い、当事者双方の発明に係る技術的特徴(構成要件)が全く同じであるとして特許権侵害訴訟を提起する場合がますます少なくなる一方、技術的特徴が類似であるとして特許権侵害訴訟を提起する場合が主流な地位を占めている。では、類似な特徴同士の均等成否をどのように判断するか。以下、中国の均等論および上記発泡ニッケル事件によりそれを簡単に紹介する。 2.均等侵害の判断基準
司法解釈「最高裁判所による特許権侵害紛争事件の審理における法律適用の若干問題に関する解釈」(2009 年)の第7条の規定によれば、イ号発明に、権利者が主張した請求項に記載された全ての技術的特徴と同一または均等なものが含まれている場合、特許権侵害と判断される。特許権侵害訴訟では、イ号発明に、対象特許発明の必要な技術的特徴と非同一・非均等な技術的特徴が1 つ以上ある場合、特許権侵害と判断されない。
また、司法解釈「最高裁判所による特許紛争案件審理の法律適用問題に関する若干規定」(2001年)の第17条の規定によれば、均等な特徴とは、請求項に記載された技術的特徴と基本的に同一の手段により、基本的に同一の機能を実現し、基本的に同一の効果をもたらし、且つ当業者が創造的な労働を経ることなく容易に想到できる特徴を指すとされる。
上記の規定から見て、均等侵害は以下のような特徴があると言える。
(1)「均等」とは発明全体の均等ではなく、単一の技術的特徴の間の均等を指す
司法解釈の規定によれば、特許権の侵害成立としての必須条件は、イ号発明に、請求項のあらゆる必要な技術的特徴と同一または均等なものが含まれていることである。また、例外として、非同一または非均等な技術的特徴が1つさえあれば、権利侵害と判断されない。言い換えれば、上記の均等判断に関する規定については、単一の技術的特徴を判断の単位とすると言える。このように、特許権の均等侵害の成否を判断する場合、同じ方式で、比較される2つの発明を、それぞれいくつかの技術的特徴に分割し、これらの技術的特徴を一々対比する必要がある。技術的特徴毎の均等を均等侵害の判断方法として採用する理由は、発明全体に基づき均等を判断すると、もともと非同一または非均等な複数の技術的特徴の間が相互作用することで、2つの発明が同じ課題を解決し、同じ技術的効果を実現する場合にも、均等侵害が成立してしまう可能性があるためである。これは、特許権者の請求の範囲を拡大することに相当し、公衆の利益を損なうことになる。従って、発明(請求項)全体ではなく、技術的特徴に基づく均等侵害の判断方法は、相対的に公平な方法である。
(2)均等な特徴を構成する必須条件
上記の司法解釈により、均等な特徴とは、請求項に記載された技術的特徴と基本的に同一の手段により、基本的に同一の機能を実現し、基本的に同一の効果をもたらし、且つ当業者が創造的な労働を経ることなく容易に想到できる特徴を指す。
つまり、均等な特徴を構成する必須条件は、上記の3 つの「基本的に同一」と1つの「容易に想到」を含む。これは進歩性の判断基準と似ている。しかし、均等な特徴の判断においては、特に、単一の特徴の比較が強調される。言い換えれば、均等な特徴を判断する際に、イ号発明における特徴Aは対象特許発明における対応特徴A’に対して、進歩性を有さず、2つの技術的特徴が単なる文字変換または通常手段の均等置き換えである場合、均等な特徴であると認定することができる。逆に、対象特許発明における対応の技術的特徴に対して、イ号発明における技術的特徴が進歩性を有する場合、両者は均等な特徴に属しない。
3.判例から均等侵害の判断を解析
上記発泡ニッケル事件で、権利者が主張した請求項に記載されたベース真空度および作業真空度はそれぞれ (1.1~4.7)×10-3Pa、(2.7~4.7)×10-2Paであるが、イ号発明のベース真空度および作業真空度はそれぞれ2×10-2Pa、(2.0~2.5)×10-1Paであり、両者にはそれぞれ1桁の差(10倍の差)がある。真空スパッタリング領域で、約10倍の圧力差は明らかな数値の違いに属する。
従来技術からわかるように、ベース真空度が高いほどスパッタ膜の純度は高くなり、設備の耐圧能力と密封性能などの要求も厳しくなる。そして、真空度を高めるには、より長い時間がかかるため、その生産性が低下するおそれもある。作業真空度が低いほど、封入するアルゴンが多くなり、スパッタ効率が高くなる。このように、明らかな数値の違いを持つ2種類の真空度の比較について、ほぼ同じスパッタ膜純度およびスパッタ効率が得られることを証明する証拠はない。また、両者の真空度の明らかな違いから、関連する動力源や耐圧設備の要求も明らかに異なることが必然である。イ号発明において真空度に関する特徴は、本件特許発明の対応特徴に対して進歩性を有すると言える。これらの理由に基づき、最終審の江蘇省高等裁判所は、真空度の特徴が均等な特徴に属しないとして権利侵害が成立しないという結論を下した。
また、数値範囲の比較について、両発明の数値範囲に明確な境界値があり、かつ数値範囲の違いが明らかである場合、均等なものに属すると容易に判定されない点は、代表的な判例としての本事件から得られた重要な情報である。
もちろん、均等な特徴の判定は進歩性の原則と関連すれば、その判定を簡略化することができるが、実務的には、禁反言原則、自由技術の抗弁原則などの多くの制限も考えなければならない。対応の特徴が均等な特徴を構成するかどうかを総合的に判断することにより、イ号発明が対象特許発明の権利を侵害するかどうかを正確に判断することができる。



