“商標共存協議”とは、通常、衝突が存在する先登録商標権者および後願商標出願人の間でサインした、後願商標の登録を許容する旨の協議という。実務的に、双方によってサインされた共存協議書または先登録商標権者から一方的に出された同意書の形で表される。商標共存協議の効力について現在まで議論がまだあるが、実務的には、中国商標登録の審査・審理事件において出願人が商標共存協議を利用して登録が認められたケースが増加しつつある。出願人は中国における商標共存協議を理解するうえ、活用するほうがよいであろう。

本稿で、商標共存協議に関する実務上のいくつかの主要問題を紹介したいと思う。ご参考になれば幸いである。 Ⅰ.商標共存協議の効力の認定法律の面から言うと、中国商標法および商標法実施条例のいずれにも商標共存協議の具体的な規定はない。商標評審規則8条に、「商標審判期間中に、当事者は法によってその商標権および商標審判に係る権利を処分する権利を有する。社会公共の利益、第三者の権利を損なわないことを前提に、当事者間において、自己によりまたは調停を経て書面にて和解に合意することができる」と規定されている。この規定は商標共存協議の形成および活用には一定の根拠を提供している。

実務的に、中国商標評審委員会(日本の審判部に相当、「商評委」と略称)は2007年から共存協議の有効性を認めており、拒絶査定不服審判事件において商標共存協議を商標の類否判断の要素として受け入れた。近年、裁判所は商標共存協議に対して緩和的スタンスを示しており、商標共存協議に対する許容性については、裁判所は商評委より高い。2016年、一審、二審で商標共存協議が認められた理由で後願商標の登録が認められた事件は約80余件であり、2017年、一審、二審で商標共存協議が認められた理由で後願商標の登録が認められた事件は約90余件であった。

商評委および裁判所は、商標共存協議の効力を認めているにもかかわらず、商標共存協議が混同性の審理を完全に代替できないと判断している。後願商標と先登録商標の共存が関連公衆に混同・誤認を起こしやすいのであれば、共存協議があっても後願商標の登録を認めることができない。 Ⅱ.商標共存協議の適用条件商標共存協議に係る事件について、商評委および裁判所は、商標共存協議、商標標識の類似性、指定商品の関連性、商標の知名度などを組み合わせて総合的に判断を行う。 1.双方商標の使用商品の類似性、双方商標の類似性双方商標の使用商品は「類似商品および役務の区分表」(以下、区分表と略称)における同一の類似群にあるが、類似性が低く、消費者が双方商標を全体的に区分できる場合、共存が認められる。

逆に、双方商標の使用商品が同種類の商品または関連性の高い類似商品であり、双方商標が同一または類似性が高く、消費者が区分しにくい場合、共存協議があっても本件商標(後願商標ともいう)の登録が拒絶される。 2.双方商標の知名度。

引用商標(先登録商標ともいう)の知名度が高く、本件商標の登録が認められれば消費者の混同を起こしやすい場合、本件商標の登録が拒絶される。本件商標は実際に使用されており、一定の知名度を有する場合、本件商標及び引用商標が類似しているが、消費者が本件商標および引用商標を区別できる場合、本件商標の登録が認められる。3.商標共存協議は社会の公共利益または第三者の権利を損なってはならない。

後願商標には独占すべきではない公共資源(たとえば、化学分子構造、製品の原料名)が含まれてはならず、または、後願商標の指定商品が第5類の医薬、第10類の医療機器などの分野に関する場合、社会の公共利益または第三者の権利を損なわないように商標共存協議が厳しく扱われる。

4.共存協議の一部認容:双方の標章に一定の違いがあり、一部の指定商品の類似性が低い場合、その商品についてのみ共存を認めることができます。標章と商品の類似性が低いほど認められやすく、双方の類似性が高いほど困難です。標章も商品も同一の場合は、通常認められません。具体的な結論は個別の事情によって異なります。

Ⅲ.商標共存協議に関する裁判例

艾格福/艾格弗:共存協議は認められませんでした。両商標の類似性が高く、第5類の有害動物駆除剤等に使用され、農業生産と生態環境に密接に関連するため、共存が公共利益を損なうおそれがあると判断されました。

新莱特/莱特:共存協議は認められませんでした。標章の類似性が高く、混同を生じやすいためです。

艾利尔/艾利:共存協議は認められませんでした。標章の類似性が高く、混同を生じやすいためです。

Discovery Destinations/New Discovery:標章全体に区別があるため、共存協議が認められました。

F1酒店/F1:標章に区別があり、協議が双方の市場を明確に区分し、後願商標の知名度も高いため、混同を生じにくいとして共存協議が認められました。

尼克尔/尼克:標章全体に区別があるため、共存協議が認められました。

NEXUS/NEXUS:指定商品に一定の違いがあり、双方が関連分野の著名企業で、合理的な使用により混同を避けられるため、共存協議が認められました。

最後のNEXUS事件は、最高人民法院が選定した2016年の代表的な知的財産事件の一つです。共存協議の判断に重要な指針を示しています。

Google Inc.(米国)の出願第11709162号は2012年11月7日出願で、指定商品はポータブル・コンピュータ及び携帯コンピュータ、類似群0901です。Shimano Inc.(日本)の登録第1465863号は1999年5月13日出願で、指定商品は自転車用コンピュータ、同じく類似群0901です。両標章はNEXUSです。

本件商標の出願人はGOOGLE INC.(以下、グーグル社という)であり、その指定商品はポータブル・コンピュータおよび携帯コンピュータである。引用商標の保有者はSHIMANO INC.(以下、シマノ社という)であり、その指定商品は自転車用コンピュータである。

グーグル社およびシマノ社がサインした共存協議(同意書)は一審、二審で認められなかった。しかし、最高裁判所の再審において認められた。最高裁判所の裁判理由は具体的に以下のとおりである。

まず、商品の種類から検討する。引用商標の指定商品は自転車用コンピュータであり、自転車スポーツ運動と密接な関係がある。一方、本件商標はポータブル・コンピュータおよび携帯コンピュータであり、コンシューマ電子領域に属する。それゆえ、両者の形式上は共にコンピュータに関連するが、機能、用途、販売ルート、消費者の対象等、一定の差異がある。

次に、引用商標の商標権者から出された同意書は引用商標の商標権者が合法的に権利を処分する方式の1つであり、必要な尊重を与えるべきである。損害を受けているか否か未だ不確実な一般消費者の利益と比較すれば、本件商標の登録および使用は、引用商標の商標権者であるシマノ社の利益影響に対し、より直接的で現実的である。シマノ社が同意書を提出したのは、本件商標の登録が容易に関連公衆の混同・誤認をもたらすか否かに対し、否定的、または、容赦する態度を表明している。

とりわけグーグル社、シマノ社がそれぞれ関連領域の著名企業であることを考慮すれば、本案中グーグル社の出願および本件商標の使用にあたり、シマノ社および引用商標の知名度を取り入れようとする悪意が存在する証拠もなく、本件商標の登録が国家利益または社会公共利益を損害する証拠もない。客観的な証拠が存在しない状況下、簡単に確定もしていない「消費者の利益を損なう」ことを理由に、引用商標権利者の生産、経営者としてのその合法権益の判断および処分を否定し、引用商標権者がなした同意書を考慮しないのは妥当でない。

第三に、商標の主要な作用は、商品または役務の出所を区別することにあるが、本件商標および引用商標以外に、グーグル社の企業名称、関連商品特有の包装・飾り付け等を含むその他の商業標識も商品、役務の出所を区別する作用を有する。

それゆえ、たとえ本件商標登録を認めたとしても、実際の使用過程において例えばその他の商業標識を結合することで、効果的に関連公衆の誤認混同を防止することができる。

以上により、本件商標と引用商標標識の差異程度、指定商品の関連程度、およびシマノ社がなした同意書等の状況を総合的に考慮し、最高裁判所は、本件商標の登録を認めると判断した。

中国類似商品・役務の区分表により、グーグル社の指定商品「ポータブル・コンピュータおよび携帯コンピュータ」およびシマノ社の指定商品「自転車用コンピュータ」は類似群0901の商品に属し、類似性が高い。本事件の前に、商評委も、裁判所も、同一の商標、同一または類似性が高い商品に対する共存協議を通常認めなかった。本事件以降に、商評委はやはりこのような審理標準を使用する傾向にあるが、司法機関である裁判所は共存協議の認定度が2017年から明らかに高くなる。これは、出願人にとって審決取消訴訟において共存協議を利用して商標の登録を得るのに有利である。 Ⅳ.商標共存協議の形式的要件 1.共存協議の主要な記載事項協議書は先登録商標権者および後願商標出願人の双方によってサインされるものであるが、同意書は先登録商標権者から一方的に出されるものである。協議書または同意書には、先登録商標の登録番号および後願商標の出願番号、双方商標の指定商品、双方商標の図柄が含まれている。また、共存協議には双方の市場の明確な区分け、および、混同防止用の必要な措置が含まれる場合、商標混同の可能性を排除する証明力が高くなり、このような共存協議が認められる可能性が高くなる。

2.外国当事者に係る共存協議の中国語翻訳および公証·認証署名・捺印された共存協議は、所在国の公証機関によって証明され、当該国駐在の中国大使館・領事館によって認証されたものでなければなりません。なお、共存協議の中国語翻訳およびその公証·認証がなければ、共存協議の効力が認められないことになる。

3.共存協議の提出期限

拒絶査定不服審判における補充証拠は、通常、審判請求日から3か月以内に提出します。2014年商標評審規則第23条により、期限後に発生した証拠、又は他の正当な理由により期限内に提出できなかった証拠は、審理終了前に提出し、法に従って採用されることがあります。原刊の約7~8か月という記述は審理期間の目安であり、補充証拠の提出期限が当然に延長されるわけではありません。審判段階で提出できない場合、後続の行政訴訟で提出を求めることが考えられます。準備中であることは、あらかじめ審判機関又は裁判所に説明することが望まれます。

Ⅴ.結び経済と社会の発展および商標件数の増加に伴い、類似商標の件数も増加しつつある。商標登録の審査・審判・裁判事件において、商標共存協議を認めたことは、当事者の商標私権への処分を尊重するとともに、中国で大量の類似商標の共存問題を解決するためである。当事者は自分の商標を登録するように、この共存協議を積極的に活用してよい。

一方、商標を共存することは、保有商標の識別性やブランドとしての影響力を低下させ、コストも高くなるおそれがある。これらについて出願人は慎重に考慮したうえ、実情に基づいて適切な判断を行うほうがよいであろう。

図 1:中国における商標共存協議の活用
図 1:中国における商標共存協議の活用
図 2:中国における商標共存協議の活用
図 2:中国における商標共存協議の活用
新莱特 / 莱特; 尼克尔 / 尼克
韓国語原刊に掲載された追加の比較標章:新莱特/莱特、尼克尔/尼克