中国の民法典で規定された債務担保方式には、保証、抵当権、質権、留置権、手付があります。その中、質権とは、債務者または第三者がその動産を債権者に引き渡して占有させ、またはその財産権を債権者に渡して制御し、その動産または財産権を債権の担保とすることを指します。債務者が債務を履行しない場合、債権者は民法典の規定に従って当該動産又は財産権で換価したり、当該動産又は財産権を競売、売却した代金で優先的に弁済する権利を有します。また、質権には動産質権と権利質権が含まれます。
特許権は質権設定の目的物の一つであり、特許権の質権設定は債権の実現を保証するために、債務者または第三者がその特許権の中の財産権を質権に設定し、債務者が債務を履行しない場合、債権者は法に基づいて当該特許権における財産権の換価金について優先的に弁済する権利を有します。 Ⅰ.特許権の質権設定の必要性特許権の質権設定により債務を担保する一般的な状況は、借金の担保、貸借の担保、賃貸工場の資金の担保などがあります。債務者は自分が所有する特許権を担保として質権を設定することができます。債務者が質権設定者になるが、第三者が質権設定者になることもあります。債権者は質権者です。 Ⅱ.特許権の質権の設立中国の物権法227条の規定に基づき、特許権に質権を設定する場合、書面による契約書を締結しなければなりません。質権は、関連主管部門で質権設定登録の手続きをした際に設立されたものとします。
このことから、質権設定契約の発効は特許権の質権の当然の設立と等同ではなく、関連主管部門で質権設定登録を行うという重要な法律手続きを経る必要があることがわかります。
特許権にとって、上記関連主管部門は中国国家知識産権局(CNIPA)であります。そのため、特許権に対して質権を設定する場合、質権設定者と質権者は書面による契約書を締結し、CNIPAに特許権の質権設定登録手続きを取らなければなりません。特許権の質権は特許権の質権設定登録の日から設立されます。
ここでの特許権の質権設定契約は、単独で締結された質権設定契約であってもよく、質権設定の条項を含む主契約であってもよいです。なお、この契約は書面で締結しなければならず、口頭形式、電話、電報またはその他の形式で締結した特許権の質権設定契約は無効です。
特許権の質権設定はなぜ登録を行ってから質権が発効するのでしょうか。その原因は特許権の特殊性であり、特許権は非常に安定した権利ではなく、権利は年金の未納、無効の原因で失効する可能性があり、特許権者によって他人へ譲渡されたり、実施許諾されたりする可能性もあるため、質権設定契約の発効は特許権の質権の当然の設立とは等同ではありません。質権設定契約の登録後に質権が設立され、当該担保物権に基づく質権者の優先弁済権が成立し、質権者の同意を得ない場合、質権設定者は譲渡、許諾などの方式で特許権を処分することはできません。 Ⅲ.特許権の質権設定登録手続き 1.質権設定登録の申請人中国特許法実施細則14条3項の規定に基づき、特許権をもって質権が設定される場合は、質権設定者と質権者によって共同で、国務院特許行政部門(CNIPAを指す)で質権設定の登録手続きを取らなければなりません。
質権設定者は特許権者でなければならず、1つの特許権に複数の特許権者がいる場合、当事者が別途約束した場合を除き、質権設定者は特許権者全体でなければなりません。 2.質権設定の代理人中国国内に常住所または営業所を有しない外国人、外国企業または外国の他の組織が特許権の質権設定登録手続きを行う場合は、法に基づいて設立された特許代理機構に委託しなければなりません。特許代理機構に委託する場合は、委任状において1名の代理人を指定して関連手続きを行うべきです。
3.質権設定登録の提出書類当事者はインターネットを通じて電子書類をオンラインで提出したり、紙書類を郵送したり、窓口に持参したりすることで特許権の質権設定登録手続きを行うことができます。当事者はCNIPAに以下の書類を提出する必要があります (1)質権設定者と質権者が共同で署名または捺印した特許権質権設定登録申請書 (2)特許権質権設定契約 (3)質権設定者と質権者の身分証明書、または当事者が署名した関連承諾書 (4)代理人を委託する場合、委託権限を明記し、質権設定者と質権者の双方が署名または捺印した委任状 (5)その他必要な資料。以上の書類が外国語である場合、中国語訳本を1部添付しなければなりません。中国語訳本を基準とします。特許権の資産価値の評価を経た場合、当事者は資産評価報告書を提出しなければなりません。
なお、質権設定登録申請書には、債務金額と質権設定金額を記入する必要があります。債務金額は主契約中の債務金額であり、質権設定金額は質権設定契約中の担保金額であります。質権設定が発生した原因を簡単に説明する必要があります。 4.特許権質権設定登録の審査 CNIPAは質権設定登録申請書を受け取った日から5営業日以内に審査を行い、登録するかどうかを決定しなければなりません。オンラインで請求される場合、CNIPAは2営業日以内に審査を行い、登録するかどうかを決定します。申請人が提出した質権設定申請書に欠陥があれば、審査期間は申請人がすべての欠陥を克服した日から起算します。
また、以下の場合は質権設定を受け入れることができません。
(1)質権設定者は、当事者が質権設定登録を申請したときに特許原簿に記載された特許権者ではない場合
(2)特許権が終了した又は無効とされた場合 (3)特許出願が特許権を付与されていない場合 (4)特許権が規定に従って年金を納付していない場合 (5)特許権は中止又は保全期間にある場合 (6)債務者の債務履行期限が特許権の有効期限を超えた場合 (7)質権設定契約には、当事者の情報、特許の情報、債権の種類と金額、債務の期限、質権担保の範囲を含む必要な情報が不足している場合 (8)共有特許権をもって質権を設定するが、全体共有者の同意を得ず、かつ特別な約束がない場合 (9)特許権が既に質権設定登録を申請しており、質権期間にある場合 (10)質権設定登録申請をした同一の出願人の実用新案と同様な発明が同日に既に特許出願された場合(ただし、当事者がこの状況を通知された後も特許権質権設定登録の継続に同意すると声明した場合を除く) (11)特許権が無効審判手続を開始された場合(ただし、当事者がこの状況を通知された後も特許権質権設定登録の継続に同意すると声明した場合を除く) 上記により、特許権質権設定契約を締結する前に、質権設定の特許が有効な状態にあるかどうか、及び同日出願であるか否かを確認しておいたほうがよいと思います。
5.質権設定の公布特許権の質権設定登録申請の審査が合格した場合、CNIPAは特許原簿に登録し、当事者に「特許権質権設定登録通知書」を送付します。 6.質権設定の取消特許権質権設定期間中に、CNIPAは質権設定登録に質権設定を受け入れない状況が存在し、まだ解消されていないことを発見した場合、または特許権質権設定登録を取り消すべき他の状況を発見した場合、特許権質権設定登録を取り消すとともに、当事者に「特許権質権設定登録取消通知書」を送付します。特許権質権設定登録が取り消された場合、質権設定登録の効力は当初から無効となります。 7.質権設定者の権利特許権が質権設定されている期間において、質権設定者が、当該特許権の放棄、譲渡または実施許諾に質権者が同意をする証明書類を提出しないと、CNIPAは放棄、譲渡または実施許諾の手続きを受理しません。
質権設定者が他人に質権が設定された特許権を譲渡または許諾した場合、質権設定者が得た譲渡料、使用料について、繰り上げて質権者に債務を弁済する又は供託するものとします。
特許権が質権設定されている期間において、以下のな状況が発生した場合、CNIPAは直ちに質権者に通知します。 (1)無効又は終了された場合 (2)年金が規定の時間通りに納付されていない場合 (3)特許権の帰属に関する紛争が生じたため、CNIPAに関連手続きの中止を要請した場合、または裁判所の裁定により特許権の保全措置が講じられた場合 Ⅳ、中国における特許権質権設定登録の現状【中国における特許権質権設定の登録件数】

中国特許調査データベースIncoPatを利用した統計によると、中国で、2010年から2022年(2022年8月1日現在)までの特許権質権設定の登録件数は上記のグラフに示すように、年々増加しています。
中国における特許権質権設定の登録件数は2021年に61,590件に達し、2020年の47,860件に比べて28%増加しました。実用新案は、特・実・意の中で質権設定件数が最も多いカテゴリーです。
近年、発明特許の質権設定件数の比率は大きく伸びており、2020年および2021年の発明特許の質権設定件数は当年の質権設定総件数に対してそれぞれの30%および47%を占めました。発明特許の質権設定件数の増加は、中国が近年打ち出した知的財産権の質権設定に関する政策と措置と関係があります。例えば2019年に、銀行保険機構の知的財産権運用への支援を強化し、知的財産権に係る質権融資を拡大するため、中国銀行保険監督管理委員会(CBIRC)、CNIPAおよび中国著作権局は「知的財産権質権融資のさらなる強化に関する通知」を発表しました。質権融資は政策の支持を得て、特許権質権設定の件数、特に発明特許質権設定の件数を大幅に増加させました。
また、2022年における特許権質権設定の技術分類状況(IPC分類表のクラスとサブクラスに基づく)は以下の通りです。
【中国特許権質権設定件数(クラスに基づく)】

【中国特許権質権設定件数(サブクラスに基づく)】

IPCのクラスに基づく上記グラフから見ると、B65、B01とG01の質権設定件数が最も多いでした。IPCのサブクラスに基づく上記グラフでは、B01D、B65G、B29Cの質権設定件数が最も多いでした。B01は一般的な物理的または化学的方法または装置を指し、質権設定において環境保護に関する特許出願が多いでした。B65Gは運搬または貯蔵装置を指します。B29Cはプラスチックの成形または接合です。
以下は2022年1月1日から8月1日にかけて中国における特許権質権設定の上位10位の質権設定者(特許権者)の状況です。

上記の統計により、自動車分野に関する質権設定の申請件数が多く、その次に材料分野に関する申請件数が多いです。
以下は中国における外国特許権者の特許権質権設定件数です。【外国特許権者からの中国特許権質権設定件数】

上のグラフから分かるように、外国特許権者全体の質権設定件数は多くなく、2019年と2021年を除いて、質権設定件数は全体的に50件以下でした。2019年の申請件数が最も多いでした。調査したところ、2019年の外国特許権者の質権設定件数の半分は「株式会社エンビジョンAESCジャパン」と「株式会社エンビジョンAESCエナジーデバイス」によって質権設定されたものであり、質権者は株式会社三井住友銀行です。 Ⅴ.まとめ特許権質権設定も特許権運営の重要な方式です。中国の特許権質権設定登録件数は年々増加する傾向にあり、特に近年、中国は知的財産権の質権設定に関する政策と措置を打ち出し、特許権質権設定件数を大幅に増加させました。また、近年、外国人特許権者による質権設定件数も増加している傾向が見られました。
本稿によって、中国の特許権質権に関する情報の概要を提供しており、中国の特許質権制度への理解に役立つことを願っています。



