中国弁理士周丹

化学分野における特許出願は技術の特殊性により、多くの場合、実験データを用いて発明の有益な効果を説明する必要があります。

中国の特許審査基準第2部第10章3.4と3.5.1の規定によると、化学分野は実験性を持つ学科に該当するため、実験により証明する必要のある発明が多数あります。そのため、通常明細書には、製品の製造と応用の実施例などのような実施例を含むべきです。(1)明細書における実施例の数は、請求項の技術的特徴の概括の程度により決定されます。例えば、並列選択要素の概括の程度及びデータの値の取得範囲など。化学発明において、発明の性質や具体的な技術分野により、実施例の数に対する要求は完全に同一であるわけでもありません。一般原則として、発明が如何に実施されるかを理解するのに十分で、かつ請求項により限定される範囲内で実施できること、そして該効果が達成できることを判断するのに十分であるべきです。(2)明細書で十分に公開されているか否かを判断する場合は、元の明細書及び請求の範囲に記載された内容を基準とします。出願日以降に出願人が特許法第22条第3項(進歩性)、第26 条第3項(十分開示要件(日本の実施可能要件に相当)) などの要求を満たすために補足提出した実験データについて、審査官は審査しなければなりません。実験データを補足提出して証明した技術的効果は、当業者が特許出願の開示内容から得られるものでなければなりません。

審査基準の実験データに関する上記の規定及び実務上の経験に基づいて、実務的にまとめた3種類のよくある実験データに関する問題を紹介いたします。

(1)実施例数の不足によるサポート要件違反の拒絶一般式を有する化合物に係る特許出願では、一般式はいくつかの置換基をカバーするため、出願後の実体審査段階で、審査官はサポート要件に違反するという拒絶理由を出す可能性があります。具体的に、置換基の構造が類似していないため、これらの置換基の性質に大きな差があり、すべての置換基が本願の実施例に記載された具体的な化合物が有する技術的効果と同じまたは類似する技術的効果を生じることができるわけではないとの拒絶理由です。例えば、請求項1に含まれる一般式の置換基にはヘテロ原子を含まないアリール基とヘテロ原子を含むヘテロアリール基とが含まれているが、実施例はヘテロ原子を含まないアリール基だけに関するものである場合、審査官は通常、「請求項1には、構造が大きく異なる化合物が多数含まれており、当業者であれば、本願明細書の実施例に記載された特定の化合物のみに基づいて、本願明細書に開示された特定の化合物と構造が大きく異なる、大量に保護を求める請求項1の化合物のすべてが、特定の化合物と同じ技術的効果を有すると判断することはできない」と指摘します。

これに対して、審査基準第2部第8章5.2.3.1の規定によると、審査段階で拒絶理由に応答する際に、ヘテロ原子を含むヘテロアリール基の実施例を追加すれば、「許容されない追加」に該当するため、特許請求の範囲からサポート要件違反に係る発明を削除せざるを得ません。そこで、特許請求の範囲を明細書によってより良くサポートできるように、明細書の作成段階で異なる構造を有する置換基を網羅するできるだけ多くの実施形態および実施例を提供するほうがよいと思います。

(2)実施例の実験データの誤りによる明細書の開示不十分の拒絶特許明細書の作成段階において、出願人のミスにより明細書に記載された実験データの一部に誤りがあるため、審査官は出願書類におけるすべての実験データの真実性を疑う結果となりました。例えば、ある特許出願の明細書に当該化合物の質量スペクトルデータHPLC -MS:715.40 m/zを示したが、当該化合物の理論分子量 1036.47によると、その質量スペクトルデータは理論上 1035.62m/zであるべきです。これに基づいて、審査官は拒絶理由通知書において、出願人が記載した当該化合物の質量スペクトルデータは実際の構造と著しく矛盾しており、本技術分野の一般的な知識に合致しておらず、当業者は本願の関連実験データの真実性と有効性を疑う合理的な理由があると指摘しました。この場合、出願人が上記のデータが作成時の誤りであると主張し、誤ったの実施例に開示されている化合物の保護を放棄する意思を示したとしても、審査官は他の実施例の真実性と有効性を認めず、本願の関連実験データの真実性と有効性を問うとの見解を依然として持っています。

上記により、明細書の十分開示要件を満たせるように、新規出願の作成段階で実験データを正確に記録し、新規出願を中国特許庁に提出する前に実験データを再確認し、明細書において実験データを正しく開示するほうがよいと思います。

(3)比較例の実験データは実施例の実験データよりも効果が良く、本願の進歩性が問われるある特許出願では、比較例と実施例は性能データについて比較したが、比較例の実験データは実施例の実験データよりも効果が優れています。これについて、審査官は、比較例の実験データの効果が実施例の実験データの効果よりも優れているため、比較例に対する実施例の予測しない技術的効果を有することは認められていないと指摘しました。

このことから、筆者は、審査段階で比較例の実験データに瑕疵があると審査官に指摘されないように、新規出願前に、瑕疵のある比較例の実験データを破棄するか、他の比較例の実験データを追加して、実施例の実験データが比較例の実験データよりも良好になるようにすることを提案します。

以上、実務的に遭遇した実験データに関するいくつかの問題でしたが、化学の分野では、実験データはその後の拒絶理由への対応において非常に重要な役割を果たします。そのため、後の拒絶理由への応答段階で取り返しのつかない瑕疵を生じさせないように、実験データの量、真実性および合理性を総合的にチェックするほうがよいと思います。