Ⅰ.改正の背景
2025年11月10日に中国特許庁(CNIPA)は特許審査基準の改正に関する決定を公布し、2026年1月1日より施行することとした。今回の改正では、第二部分第九章に第7節「ビットストリームを含む特許出願の審査に関する規定」を新設し、デジタル経済発展に対応する新たな特許保護の枠組みを体系的に構築した。従来の記憶媒体保護における物理的境界を突破し、特許保護をストリーミング技術のライフサイクル全体にまで拡張するものである。
Ⅱ.核心的な改正内容
今回新設された第二部分第九章第7節「ビットストリームを含む特許出願の審査に関する規定」は、主に以下の内容を含む。
2.1 ビットストリームを含む特許出願が特許権付与の対象となり得る場合の明確化
純粋なビットストリームの除外
第二部分第九章第7.1.1節では、クレームの主題が単に純粋なビットストリームに係るものである場合、当該クレームは特許法第25条第1項第2号に規定する「知的活動の規則及び方法」に該当し、特許保護の対象ではないと規定している。例えば、「ビットストリームであって、構文要素Aと、構文要素Bと、 …… を含むことを特徴とするビットストリーム」である。もし、一クレームが、その主題名称を除き、その限定内容の全てが純粋なビットストリームにのみ係るものである場合、当該クレームは上記「知的活動の規則及び方法」に該当し、特許保護の対象ではないとされる。例えば、「ビットストリームを生成する方法であって、前記ビットストリームは構文要素Aと、構文要素Bと、……を含むことを特徴とする方法」である。
特許保護の対象
第二部分第九章第7.1.2節では、デジタルビデオ符号化・復号化の技術分野では、通常、ビデオデータはビデオ符号化方法によってビットストリームを生成し、ビットストリームはビデオ復号化方法によってビデオデータを生成するとされる。もし、ビットストリームを生成する特定のビデオ符号化方法が特許法第 2条第2項にいう技術案に該当する場合、当該特定のビデオ符号化方法によって限定される、当該ビットストリームを記憶又は伝送する方法、及び当該ビットストリームを記憶するコンピュータ読み取り可能な記憶媒体は、記憶又は伝送リソースの最適な配置などを実現し得る。したがって、当該特定のビデオ符号化方法によって限定される記憶又は伝送方法、及びコンピュータ読み取り可能な記憶媒体は、特許法第2条第 2項にいう技術案に該当し、特許保護の対象となると規定されている。
ここで、ビットストリームを生成する特定のビデオ符号化方法自体が技術案(技術的課題を解決し、自然法則を利用しているもの)でなければならない。この方法によって限定される(当該ビットストリームを記憶/伝送する)方法及びコンピュータ読み取り可能な記憶媒体は、特許保護の対象となり得る。記憶/伝送方法又は媒体は、引用又は包含の方式により、その特定の技術的な符号化方法に明確に結び付けられなければならない点に注意することが重要である。
2.2 ビットストリームを含む特許出願の明細書作成要件の明確化
第二部分第九章第7.2.1節では、特定のビデオ符号化方法によって生成されたビットストリームを含む特許出願の明細書は、当該特定のビデオ符号化方法について、当業者がその発明を実施できる程度に、十分に明確かつ完全に開示しなければならないと規定されている。保護主題が当該ビットストリームを記憶又は伝送する方法、及び当該ビットストリームを記憶するコンピュータ読み取り可能な記憶媒体に係る場合、明細書ではさらに、クレームをサポートするための相応の説明をしなければならない。
2.3 ビットストリームを含む特許出願のクレーム作成要件の明確化
第二部分第九章第7.2.2節では、特定のビデオ符号化方法によって生成されたビットストリームを含む特許出願は、記憶方法、伝送方法及びコンピュータ読み取り可能な記憶媒体のクレームとして作成することができると規定されている。一般的に、このようなクレームは、当該ビットストリームを生成する特定のビデオ符号化方法クレームを基礎とし、当該特定のビデオ符号化方法クレームを引用する方式、又は当該特定のビデオ符号化方法の全ての特徴を含む方式によって作成すべきであるとされる。また、同第7.2.2 節では具体的な作成例も提示されている。
ビデオ符号化・復号化技術に係る特許出願は、以下の方式でクレームを作成することができる。
例1
ビデオ符号化方法であって、 ……フレーム分割ステップと、 …… エントロピー符号化ステップと、を含むことを特徴とする方法。
例2
ビデオ符号化装置であって、フレーム分割ユニットと、 …… エントロピー符号化ユニットと、を含むことを特徴とする装置。
例3
ビデオ復号化方法であって、エントロピー復号化ステップと、 … … フレーム出力ステップと、を含むことを特徴とする方法。
例4
ビデオ復号化装置であって、エントロピー復号化ユニットと、 …… フレーム出力ユニットと、を含むことを特徴とする装置。
例5
ビットストリームを記憶する方法であって、請求項1に記載のビデオ符号化方法を実行してビットストリームを生成し、前記ビットストリームを記憶することを特徴とする方法。
例6
ビットストリームを伝送する方法であって、請求項1に記載のビデオ符号化方法を実行してビットストリームを生成し、前記ビットストリームを伝送することを特徴とする方法。
例7
コンピュータプログラム/命令及びビットストリームが記憶されているコンピュータ読み取り可能な記憶媒体であって、前記コンピュータプログラム/命令がプロセッサによって実行されるときに、請求項1に記載のビデオ符号化方法を実現して前記ビットストリームを生成することを特徴とするコンピュータ読み取り可能な記憶媒体。
Ⅲ.実務上のアドバイス
3.1 クレーム作成戦略
クレームの構築は、体系的な配置をより重視すべきである。「核心的方法クレーム+引用式派生クレーム (derivative claims)」のツリー構造を採用することを提案する。例えば、まずビデオ符号化・復号化方法のクレームを独立して作成し、その後、引用方式により記憶方法、伝送方法及びコンピュータ読み取り可能な記憶媒体のクレームを構築する。この構造は、上述の第7.2.2節の例示要件に合致するだけでなく、クレーム補正の柔軟性及び侵害判定の明確性を確保することができる。
なお、コンピュータプログラム製品は上述の第7.2.2節の例示では明確に言及されていないが、審査実務を考慮すると、より包括的な保護範囲を達成するために、コンピュータプログラム製品クレームを作成することを提案する。
3.2 明細書作成戦略
上述の第7.2.1節の規定に基づき、明細書は、ビットストリームを生成する特定のビデオ符号化方法を十分に開示しなければならない。該ビットストリームを記憶又は伝送する方法、及び該ビットストリームを記憶するコンピュータ読み取り可能な記憶媒体の保護主題に係る場合、明細書はさらに、クレームをサポートするための相応の説明をしなければならない。
「十分な開示」とは、明細書の作成過程において、ビットストリームを生成する核心的技術案を記述の重点としてアルゴリズムのプロセスを完全に開示するだけでなく、該符号化・復号化方法が技術的課題(例えば、符号化・復号化効率の向上、符号化・復号化複雑度の低減、シグナリングオーバーヘッドの削減など) を解決し、かつ技術的手段を利用していることを証明する必要があり、これが第7.1.2節の「技術案」の要件を満たす前提である。
記憶媒体などの派生クレームについては、明細書において技術案との論理的関連性を構築する必要がある。例えば、明細書に「本発明の実施形態はコンピュータ読み取り可能な記憶媒体(例えば、非一時的記憶媒体)に関し、前記記憶媒体はプロセッサによって実行されるときに、プロセッサに前記ビデオ符号化方法又はビデオ復号化方法の全て又は一部のステップを実行させるコンピュータ実行可能な命令を記憶することができる。さらに、前記記憶媒体は前記特定のビデオ符号化方法に従って生成されたビットストリームを記憶することもできる」を追加することができる。
Ⅳ.結び
今回の特許審査基準の改正は、中国のデジタル技術産業におけるイノベーションを保護する法的枠組みを提供している。出願人はこの機会を活用して、新規則に準拠して特許出願戦略を積極的に調整し、それによって知財防御力を強化することができる。



